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2015年3月26日木曜日

アンナプルナの山々に8



予期していたほどの筋肉痛はなく、

目覚めは爽快だった。

今の時期のカトマンズでは感じることのない冷気。

大きく伸びをして起き上がり、2つの肺のすみずみに空気が入るイメージをしながら

窓際で深呼吸をすると、意識が急にしっかりとする。

宿の前の道を、背中に荷を満載したロバの行列が駆け抜ける。


コーヒーと、トーストと、スクランブルエッグ。

手作りのジャムとバターで頂いてさらに目が醒めた。

ディパックが笑顔で数字を言いながら請求書を作る。

お金を渡し、握手をするとその手を離さないまま話し続ける。

今日は登りのきつい石段があるからあまり無理をせず、

疲れたらポニー・サービスもあるよ。1人120ドルだけど、ワハハ!

などと相変わらずのディパック節に元気をもらう。

“フェリ・アウノス!(また、来てくれよ)、ナマステ!”



今日は一番の長丁場、ゴレパ二の街へと足を踏み出す。

ピークを越えると最初のヒマール(白く雪を被った山)が見えるはずだ。




カウベルならぬロバベル?がカランカランと山間に響く











 

2014年3月8日土曜日

アンナプルナの山々に7



心もとない作りの階段がたわむ。



冷たい手すりを握ったまま、凄まじい数の星にただ目を奪われた。


ハワイ島・マウナケア山で観た星の2倍とは大げさだが、

白い素地に黒い点が散らばっていると言っても過言ではないと思う。

妻を呼ぼうと思っても、暗闇の中で目に集中した神経は、声を出す力さえ分けてくれない。


深く息をしても鼓動は強く、階下の宴会の声よりも頭に響く。






やっとの思いで部屋へと戻り、手招きで呼び寄せて妻と二人、空を眺めた。

これ以上の空を、次に見れるのはいつか。

圧倒的な、圧倒的な宇宙を前に、

本当に小さくて、短い自分の人生を思う。


 

2012年9月5日水曜日

アンナプルナの山々に5




宿の皆が食事を終えるころ、

厨房の中でネパール人たちが

ネパールの地酒ロキシ―を片手に盛り上がる。



明日の朝食メニューを見に行っただけの僕は、彼らに即座につかまって、

自家製のロキシーをあてがわれて座る。

少し荒削りな米焼酎のような味。でもやわらかくて香ばしくて、すぐに好きになった。



ディパックは皆の真ん中で楽しそうに話し、

時に踊るような大きな身振りとオチで笑わせる。



うまくいっていないビジネスをネタにしているようだ。

心から楽しそうに。

そんな気持ちとみんなの笑う声が部屋に充満していて、

冷え込むヒマラヤの夜もここだけは暖かく、ゆっくり時間が流れる。


各国のトレッカーたちのリラックスもいろいろで、

ドイツの青年たちは素早くベッドにもぐったのか、部屋から物音ひとつもしない。



アメリカ人カップルは、屋外のテーブルで二人、温かいロクシーを飲みながら、

「ショウチュウに、ウメボシいれて飲みたい」などと言っている(笑)

日本で住んでいたことがあるとか。



ネパール人たちはお酒がすすんでくると、なぞなぞを言い合ったり、

おバカな話でゲラゲラ笑い、大盛り上がりするのが好きだ。



ひとしきり笑い、明日のコースを確かめあうと、さすがに眠気がやってきた。

明日は朝の7時発。寝よう。



その数秒後。

2階に上がる階段で、

満天の星に、息をのむ。



宿の庭で。

  
 


石の屋根瓦。留めるための楔(くさび)まで石でできています。
 

宿から見下ろすと、ミュール(馬とロバの掛け合わせ)
周りが静かだから、2階まで草を食む音がはっきり聞こえます。









 

2012年8月8日水曜日

アンナプルナの山々に4



ティルケドゥンガ(ティケドゥンガとも)までの道のりは、

比較的整備の行き届いたトレイルで、

少しばかりの体力と、初日特有の興奮があれば、乗り切れる。




オタマジャクシの少年に別れを告げると、

道の勾配が少しついてきた。

川も眼下に流れ出す。



砂利道はやがて石畳に、時折階段のようになり、視界の両脇には

濃い緑色の棚田が続く。

急斜面に、小刻みに作ってあるから

西日が差してできた影が、くっきりと縞模様になって見える。

目に癒し。



途中に茶店がいくつもあり、


さっき追い抜かれたグループの休憩を横目に、また僕らが前に出る。


次の休憩で、抜かれる。


お互い何となく顔見知りになって、軽く手をあげて挨拶をする。



そんなことを幾度と繰り返して、昼の3時頃だろうか、

ちょうどいい高さの石のベンチに腰かけていると、野球帽をかぶった小柄な男性が近づいてきた。


彼の、笑顔でゆっくりとした話しぶりに、引き込まれる。




今日はどこから来たんだい?どこまで歩く予定?




たどたどしくネパール語で答えると、彼は一層笑顔になって、

いろいろな事を訊ねてきた。


アンナプルナは何回目?

日本にはこんな山はあるのかい?山登りをする人は多いのかい?

ベースキャンプへは行くのかい?

この旅の目的地は?


矢継ぎ早なのに、ゆったりとしているのはなぜだろう。

気が付くと、ずいぶん長く彼と会話を続けていた。




彼は言う。

この先のヒレまで行くと日が暮れるし、

このあたりは景色もいい。

今日もしこの辺で泊まるなら・・・とにこやかに、僕らの背後にあるロッジを指さした。

「僕の、宿なんだ。僕の名前はディパック・シェルパ。」





こんな呼び込み、はじめてだ。長い会話のその後に、結論が待っていた(笑)。

陽は傾いて、涼しい夕風が吹いている。

断る理由はひとつもなくて、妻と顔を見合わせて笑った後は、

彼の後について、2階端の部屋へと案内された。



設備のひとつひとつを指さしながら、


丁寧に説明してくれる。さっきの会話と同じ速さで。


シャワーやトイレの場所、食事の時間に洗濯のこと。


話し終わると彼はまた、「ゆっくり休んでね」とにっこり笑い、

階下の厨房に、入っていった。



靴を脱いで、ベッドに腰かけて伸びをして、そのまま後ろに倒れ込む。

細い角材を組んで、ベニヤを貼って、白く塗る。古くて、ごく簡易なロッジではあるけれど、

これまでたくさんのトレッカーを迎えてきた歴史は、しっかりと刻まれている。



期待を超える温度のシャワーを浴びて部屋に戻ると、

2階も、1階も、全部の部屋が埋まっていた。



ディパック・シェルパの宿、満員御礼。


ロッジ全景・・・味があるのです。
ぎしぎしへこみはしますが・・・味があるのです。




味のある、看板。



 

ささやかな、夕食。一応「春巻」とのこと。
うまかった!
脱いだ瞬間、報われました。








2012年8月4日土曜日

アンナプルナの山々に3



いくつかのロバの隊商とすれ違い、

山道を行き交う人々の姿にも慣れてくると、だんだん目新しいものを観たくなる。







そんなタイミングで、道はやがて崖下に近づいて、

流れている川に沿って歩くようになった。


カトマンズを流れる川とはまったく違う透明な、まさに清流だ。

子供たちが水着も付けずにダイブを繰り返し、大はしゃぎで遊んでいる。

しばらく進むと、腰に魚籠をつけて何やら捕まえている少年を見かけた。

爽やかな、ドヤ顔(笑)
大漁です。





























名前、年齢、住んでいるところを訊ねることは、何とかできた。



16歳。学校に通うというけれど、


僕らが歩いてきたあの長い道を行ったり来たりしているとか。

トレッキングなど、無意味に思える(笑)




そして獲物。

籠の中を見るとそこには魚・・・ではなく無数のオタマジャクシ!

今夜のおかずにするという。嬉しそうだ。うちに食べにおいでと言ってくれた。



ネパールの人たちは、決して建前ではなく、

我が家へ来てごはんを食べないかと誘ってくれる。

気持ちは嬉しいが、さすがに両生類は・・・。




本当はスケジュールなどないくせに、

先を急ぐ、と僕は建前を使わせてもらう。



水牛、というだけあって水と地上との区別がまったくないようです。

話している僕らの間に悠然と割り込み、川に入っていきました。








一緒に写真を撮ったので、

送るにはどうしたらいいかと尋ねる。


メールアドレスを訊ねると、その概念すら解らない様子だった。

そんな地域も残されているのだ。


きっと将来、彼がPCやネットに触れる日が来ると信じて、

僕のアドレスを残しておいた。



いつかもしメールが届いたら、

それは彼にもネット時代が来たことを知る時だ。




「今度いつ会えるか」と寂しそうに彼が言った時、


またアンナプルナに来たい、と思った。



まだトレッキング初日なのに(笑)。



世界各国から、トレッカーたちが。おもに中年が多いかな。
あ、僕もか。




2012年7月1日日曜日

アンナプルナの山々に2

出発直後の腹ごしらえに、やや重い身体でパサル(店)を出る。

アヒルの赤子たちに見送られて、いよいよトレイルに。

今日は標高1500mのティルケドゥンガを目指して歩く。



保護色?近づくまで存在に気が付かず。




ヒマラヤの高地民族グルンの様式は石の多用が特徴だ。

家、蔵、そして石畳と、独特な雰囲気に気分も高揚するが、

ほどなく砂利道にかわり、ここから延々と同じような道と景色が続く。




集落を抜けると、とたんに静かになり、崖下を流れる渓流の音が上ってくる。

まだはるか前方なのに、こちらに向かうロバの鈴が、

切り立った斜面に反射しながら聞こえてくる。

カトマンズでいかに騒音に囲まれていたかに改めて気づいた。




やがて近くの集落(といっても結構な距離だが)から出てきた

シェルパ族の子供たちが近づいてくる。

トレッカーたちにお菓子やお金をねだるのだ。



日本人によく似た顔立ちに他人とも思えず(笑)、

「大人になって、働いてお金を稼ごうな」

などと説教くさいことを言っては、やり過ごす。                                     



妻に駆け寄る、シェルパの子供たち。
妻を見切った後(笑)、こちらにやってきた。



























ある事に気付く。


この道から枝分かれして、いくつもの集落があるのだけれど、

そこから来る人みんなが、(小さな子供からお年寄りまで)

両肩からたすき掛けになったような服(?)を身に着けているのだ。



そして僕らを追い越していく人々の後ろ姿に、

その理由がわかった。




山を下りては登る度に、決してむなし手で帰らないために、

その服の背中の空洞に、何某かのモノを入れているのだ。


缶詰。果物。野菜ときにはニワトリを(笑)。


左右均等に重さを分散できるから、体力も温存できそうな

元祖バックパック。



高地に暮らす人々のシンプルな知恵に感心し、

また、歩きだす。

最初はユニフォームかと。














2012年5月12日土曜日

アンナプルナの山々に1





今回のトレッキングでは、3つばかりの狙いを定める。


1.プーンヒル(3190m)でアンナプルナ連峰の夜明けを観る

2.ワンランク上の体力を身に着ける(笑)

3.ネパール語を使って、現地の人たちと会話をする



早朝のタメルから、インターシティーのバスで6時間、

カトマンズから西へ200kmほどのポカラを起点に、アンナプルナ自然保護区を歩く。


ナヤプル、という集落がこのコースの開始点で、

そこから15分ほど進んだビレタンティという村にチェックポストがある。

あらかじめ取っておいた保護区への入域許可証を提示して、半券をもぎる。

名前、国籍、パスポート番号などを台帳に書き込む。

新緑眩しい・・・

















さらに歩くと、

今度は別の窓口でTIMS(Trekkers' Information Management System)という、

これまた事前に取得した、別の登録証を提示する。



ガイドやポーターを雇うのか雇わないのか、

なんだかんだのやりとりで、なかなか前に進めない。



コースに沿って流れる川を渡り、いよいよ・・・と思って歩き出すと、

先ほどの窓口のお兄さんが笑顔で前からやってくる。

渓流に突き出した眺めのいいテラスを指さして

「ここはうちがやってるんだ。チヤでも?」

というわけで早速の休憩。



進まないトレッキングのはじまり、はじまり。

石畳の道を歩き出す



笑う鈴。ロバ用か?

チヤだけのつもりが、珍しさで注文した川魚。
味は・・・ふつう(笑)

物資を運ぶロバの隊商。このあと幾度も出会います。















2012年4月29日日曜日

モンスーンが来る前に





5月の半ば頃、

モンスーンが来ると、ネパールを含む南アジアに雨季がやってくる。

そうなればトレッキングのシーズンはひとまず終わりだ。

雲や霧で、山が見えなくなる。



その前に、ずっと延びていた計画が、

ようやく来週実現できることになった。



カトマンズから北東へ向かえばサガルマータ(エベレスト)、

南西にはアンナプルナというそれぞれ有名なエリアがある。


手に入れた地図は、

アンナプルナ周辺のものだ。 エベレストは秋にとっておくことにして。



出発起点のポカラという街から、「ゴレパニ」、と呼ばれるエリアを含むもので、

さらにそこから伸びる「プーンヒル」という展望台までのルートが載っているものを

選んで買った。全部で1週間ほどの行程を組む。


ネパール語で「パニ」とは水を表しているのだが、

この地域にはゴレパニをはじめ、

「タトパニ」、「タダパニ」など共通してこれがつく地名が多い。

川や温泉がいくつもあり、それにちなんでいるのだろう。


だから今回は、長かった「シャワー生活からの逃避」という目的もあったりする。






けれども今はモンスーン前。

人生前半をかけて証明された雨男の実績。

ついでに「パニ」には「雨」という意味も(笑)


本当は心の隅に不安はあるけれど、どうしようもない事は

あえて考えないことにした。そう、考えてはいけない。



温泉にロッジに、山の名前。

ガイドブックを読みながら、

遠足を待つ子供のような気持ちになる。




Googleマップは、使えません。





2012年4月2日月曜日

ナガルコットからサクーまで

山を歩きたくなっていたところで

日本から友人たちが来る。

日程を長くとれないのはいつものことだから、

ナガルコットからバクタプル近辺のサクーという村まで、

なだらかな散歩道を“トレッキング”と称して出かけた。

車でカトマンズから2時間とかからない。



あいにくの曇り空と黄砂のような霞みで、

待望のヒマラヤは見れずじまい。

そのぶん途中の村や人々、風景にレンズを向けた。


地味な夜明けから始まる1日(笑)




















昔乗ってたランクルBJ44V。埃だらけの現役。

























わかりやすい道なのに、

時折どちらへ行けばいいか迷うところがある。


そういう時には村の子供たちが現れて、こっちこっちと招いてくれる。

助かったと思うも、招いたその手でしっかりおやつをねだられた(笑)




絵に描いたような・・・





















笑う膝をかかえつつ、麓のバス停まで3時間。

再来週のアンナプルナに向けて、良い演習となった・・・のだろうか。