ティルケドゥンガ(ティケドゥンガとも)までの道のりは、
比較的整備の行き届いたトレイルで、
少しばかりの体力と、初日特有の興奮があれば、乗り切れる。
オタマジャクシの少年に別れを告げると、
道の勾配が少しついてきた。
川も眼下に流れ出す。
砂利道はやがて石畳に、時折階段のようになり、視界の両脇には
濃い緑色の棚田が続く。
急斜面に、小刻みに作ってあるから
西日が差してできた影が、くっきりと縞模様になって見える。
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目に癒し。 |
途中に茶店がいくつもあり、
さっき追い抜かれたグループの休憩を横目に、また僕らが前に出る。
次の休憩で、抜かれる。
お互い何となく顔見知りになって、軽く手をあげて挨拶をする。
そんなことを幾度と繰り返して、昼の3時頃だろうか、
ちょうどいい高さの石のベンチに腰かけていると、野球帽をかぶった小柄な男性が近づいてきた。
彼の、笑顔でゆっくりとした話しぶりに、引き込まれる。
今日はどこから来たんだい?どこまで歩く予定?
たどたどしくネパール語で答えると、彼は一層笑顔になって、
いろいろな事を訊ねてきた。
アンナプルナは何回目?
日本にはこんな山はあるのかい?山登りをする人は多いのかい?
ベースキャンプへは行くのかい?
この旅の目的地は?
矢継ぎ早なのに、ゆったりとしているのはなぜだろう。
気が付くと、ずいぶん長く彼と会話を続けていた。
彼は言う。
この先のヒレまで行くと日が暮れるし、
このあたりは景色もいい。
今日もしこの辺で泊まるなら・・・とにこやかに、僕らの背後にあるロッジを指さした。
「僕の、宿なんだ。僕の名前はディパック・シェルパ。」
こんな呼び込み、はじめてだ。長い会話のその後に、結論が待っていた(笑)。
陽は傾いて、涼しい夕風が吹いている。
断る理由はひとつもなくて、妻と顔を見合わせて笑った後は、
彼の後について、2階端の部屋へと案内された。
設備のひとつひとつを指さしながら、
丁寧に説明してくれる。さっきの会話と同じ速さで。
シャワーやトイレの場所、食事の時間に洗濯のこと。
話し終わると彼はまた、「ゆっくり休んでね」とにっこり笑い、
階下の厨房に、入っていった。
靴を脱いで、ベッドに腰かけて伸びをして、そのまま後ろに倒れ込む。
細い角材を組んで、ベニヤを貼って、白く塗る。古くて、ごく簡易なロッジではあるけれど、
これまでたくさんのトレッカーを迎えてきた歴史は、しっかりと刻まれている。
期待を超える温度のシャワーを浴びて部屋に戻ると、
2階も、1階も、全部の部屋が埋まっていた。
ディパック・シェルパの宿、満員御礼。
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ロッジ全景・・・味があるのです。 |
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ぎしぎしへこみはしますが・・・味があるのです。 |
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味のある、看板。 |
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ささやかな、夕食。一応「春巻」とのこと。
うまかった! |
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脱いだ瞬間、報われました。 |