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2012年8月23日木曜日

時計をのぞけば





街を歩いてふと時間が気になり、

袖をまくって時計を見た瞬間、すれ違うおじさんが何か話しかけてきた。

何を言ったかすぐにわからず、訊き直すと、



「いま何時?」



「え?2時だけど・・・。」 

おじさん、頷いてそのまま立ち去る。




今日も雨のなか、すれ違いざまに時間を訊かれる。

もちろん時計を見た直後にだ。



そしてまた午後にも、時計をのぞいたその刹那、

「何時?今。」 

こちらをじっと見つめてる。


さすがに面白くて、つい笑いながら教えてあげた。



「すみません・・・」から始める訳でもなく、

時間を訊ねるにあたっては、何の躊躇いもない。



みんながみんな、時計を持っているわけではないから、

「公」の情報は共有すべきとの意識、だろうか(笑)




そういえば子供のころ、道行く大人に時刻を尋ねたことが、

あったような、無かったような・・・。



テンプーの中、妻と記憶をたどってみる。




ヒマールが、帰ってきた!







2012年8月8日水曜日

アンナプルナの山々に4



ティルケドゥンガ(ティケドゥンガとも)までの道のりは、

比較的整備の行き届いたトレイルで、

少しばかりの体力と、初日特有の興奮があれば、乗り切れる。




オタマジャクシの少年に別れを告げると、

道の勾配が少しついてきた。

川も眼下に流れ出す。



砂利道はやがて石畳に、時折階段のようになり、視界の両脇には

濃い緑色の棚田が続く。

急斜面に、小刻みに作ってあるから

西日が差してできた影が、くっきりと縞模様になって見える。

目に癒し。



途中に茶店がいくつもあり、


さっき追い抜かれたグループの休憩を横目に、また僕らが前に出る。


次の休憩で、抜かれる。


お互い何となく顔見知りになって、軽く手をあげて挨拶をする。



そんなことを幾度と繰り返して、昼の3時頃だろうか、

ちょうどいい高さの石のベンチに腰かけていると、野球帽をかぶった小柄な男性が近づいてきた。


彼の、笑顔でゆっくりとした話しぶりに、引き込まれる。




今日はどこから来たんだい?どこまで歩く予定?




たどたどしくネパール語で答えると、彼は一層笑顔になって、

いろいろな事を訊ねてきた。


アンナプルナは何回目?

日本にはこんな山はあるのかい?山登りをする人は多いのかい?

ベースキャンプへは行くのかい?

この旅の目的地は?


矢継ぎ早なのに、ゆったりとしているのはなぜだろう。

気が付くと、ずいぶん長く彼と会話を続けていた。




彼は言う。

この先のヒレまで行くと日が暮れるし、

このあたりは景色もいい。

今日もしこの辺で泊まるなら・・・とにこやかに、僕らの背後にあるロッジを指さした。

「僕の、宿なんだ。僕の名前はディパック・シェルパ。」





こんな呼び込み、はじめてだ。長い会話のその後に、結論が待っていた(笑)。

陽は傾いて、涼しい夕風が吹いている。

断る理由はひとつもなくて、妻と顔を見合わせて笑った後は、

彼の後について、2階端の部屋へと案内された。



設備のひとつひとつを指さしながら、


丁寧に説明してくれる。さっきの会話と同じ速さで。


シャワーやトイレの場所、食事の時間に洗濯のこと。


話し終わると彼はまた、「ゆっくり休んでね」とにっこり笑い、

階下の厨房に、入っていった。



靴を脱いで、ベッドに腰かけて伸びをして、そのまま後ろに倒れ込む。

細い角材を組んで、ベニヤを貼って、白く塗る。古くて、ごく簡易なロッジではあるけれど、

これまでたくさんのトレッカーを迎えてきた歴史は、しっかりと刻まれている。



期待を超える温度のシャワーを浴びて部屋に戻ると、

2階も、1階も、全部の部屋が埋まっていた。



ディパック・シェルパの宿、満員御礼。


ロッジ全景・・・味があるのです。
ぎしぎしへこみはしますが・・・味があるのです。




味のある、看板。



 

ささやかな、夕食。一応「春巻」とのこと。
うまかった!
脱いだ瞬間、報われました。








2012年8月4日土曜日

アンナプルナの山々に3



いくつかのロバの隊商とすれ違い、

山道を行き交う人々の姿にも慣れてくると、だんだん目新しいものを観たくなる。







そんなタイミングで、道はやがて崖下に近づいて、

流れている川に沿って歩くようになった。


カトマンズを流れる川とはまったく違う透明な、まさに清流だ。

子供たちが水着も付けずにダイブを繰り返し、大はしゃぎで遊んでいる。

しばらく進むと、腰に魚籠をつけて何やら捕まえている少年を見かけた。

爽やかな、ドヤ顔(笑)
大漁です。





























名前、年齢、住んでいるところを訊ねることは、何とかできた。



16歳。学校に通うというけれど、


僕らが歩いてきたあの長い道を行ったり来たりしているとか。

トレッキングなど、無意味に思える(笑)




そして獲物。

籠の中を見るとそこには魚・・・ではなく無数のオタマジャクシ!

今夜のおかずにするという。嬉しそうだ。うちに食べにおいでと言ってくれた。



ネパールの人たちは、決して建前ではなく、

我が家へ来てごはんを食べないかと誘ってくれる。

気持ちは嬉しいが、さすがに両生類は・・・。




本当はスケジュールなどないくせに、

先を急ぐ、と僕は建前を使わせてもらう。



水牛、というだけあって水と地上との区別がまったくないようです。

話している僕らの間に悠然と割り込み、川に入っていきました。








一緒に写真を撮ったので、

送るにはどうしたらいいかと尋ねる。


メールアドレスを訊ねると、その概念すら解らない様子だった。

そんな地域も残されているのだ。


きっと将来、彼がPCやネットに触れる日が来ると信じて、

僕のアドレスを残しておいた。



いつかもしメールが届いたら、

それは彼にもネット時代が来たことを知る時だ。




「今度いつ会えるか」と寂しそうに彼が言った時、


またアンナプルナに来たい、と思った。



まだトレッキング初日なのに(笑)。



世界各国から、トレッカーたちが。おもに中年が多いかな。
あ、僕もか。