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2015年4月8日水曜日

ボス!ダンプ!ボス!その2


毎日ドアの向こうにいる彼とは早めに折り合わないと、

外出時に毎回冷や汗をかき続けることになる。とはいえこの異国で犬に襲われた場合の厄介な手

続きを想像すると、どうしても腰が引ける。

犬は怖気づいた人間をすぐに見抜く。

この悪循環を断たねば。



そんな時、アメリカから帰国した大家さんの息子がやってきて

「ノブ、ダンプと仲良くなる鍵はだな・・・」 と言いながらビスケットを一袋手渡してくれた。


「食い物だよ。」


普段はネパールにおらず、2、3年に1度しか帰国しない彼も、

自分の事を忘れるダンプに悩んでいたらしい。

1度は咬まれたこともあると聞いて驚いた。



彼は僕を庭へ連れ出し、寄ってきたダンプに向かってビスケットを見せる。

「ボス!(座れ!)、ダンプ!ボス!」 と叫ぶと、T-REXダンプの目の色が変わる。


芝生の上に即座に座り、大根よりも大きな尻尾を千切れんばかりに振っている。

そのせいであたかも周囲に強い風が吹くようだ。

クッキーを与える前に、頭を撫でて 「ハート!(お手!)」と言うと1回で巨大なダンプとの握手に

成功した。


彼はダンプの手を握ったまま得意そうに笑い、ビスケットの持つ力を証明。

お前もやってみろと合図する。


僕は腰が引けたまま、ビスケットをやや大げさに掲げて、

「ボス!ダンプ!ボス!」 と叫ぶ。ネパール語で育ったダンプには「お座り!」は通じない。


次の瞬間、ダンプはさっきと同じように座り、子犬のような表情でビスケットを欲しがった。

「ハート!」の言葉にもすぐ応じ、巨大な前足を僕に差し出す。

「やった!」思わず出た日本語に怪訝そうな表情を見せるが、

恐る恐る頭を撫で、頬を撫で、顎をさすってやると目をつぶり、気持ちよさそうな表情になる。



数枚のビスケットを受け取ったダンプはその日から明らかに僕を友達と認め、

あの恐ろしい眼をすることは無くなった。


僕のネパール語の発音が悪いと、言う事を聞いてくれないから、

ある意味良い練習にもなっている。


恐怖の数日を終わらせたのは、たった数枚のビスケット。

誰でも克服できそうなセキュリティーホールの甘さにやや心配にはなるのだが、

少なくともこの巨大な友達と良好な関係を築けたことを、喜ぼうと思う。



                    
単純だが愛すべき…













2015年4月2日木曜日

参りますとも

カリボット、という場所へ行かなければならなかったのだが

行き方がわからない。

大体のところを人に訊いてから出かけるものの、

やはり途中でまた誰かに訊ねることになる。


縦横無尽のマイクロバス路線、行き先プレートがあったりなかったり、

目的地を叫ぶバスのカラッシー(車掌、とでもいおうか。中学生くらいの子供が多いのだが。)も

きちんとそれを発音してはくれない。というか聞き取れない。



停まって欲しいオーラを出しつつ路傍に立っていると、

バスは速やかにスピードを落として近づいてくる。

“カリボットに行くか?”バスを指さして訊いてみる。カラッシー首を振る。

次も同じ。

3台目でようやく首が横に傾く。(参照:首をかしげて)乗れと身振りで示されバスへ。


カリボットがあると思われる道で曲がらなかったので、

念のため再度“カリボットへは行くんだよね?” と確認。

カラッシー大きく首を傾けて “ジャンチャ、ジャンチャ(参りますとも)”と繰り返す。


しかし、である。(最近これが多い)

カリボットは空港までは行かない、と聞いていたので、

カラッシーが開けたドアの頭上に小型飛行機がかすめて飛んだ時、悟った。

カトマンズには“カリボット”がまだ他にもあり、僕はそこに連れて行かれるのだと。

こうなれば、そっちの“カリボット”をこの目で見てやろう、

などとつまらない意地でそのまま乗っていくことにした。(本家カリボットも知らないくせに)



15分後、特にどうということもない、工事中の広い道路の広がる“カリボット”に降り立ち

どうやって帰ろうかと考える僕がいた。



発音は通じるようになっても、まだまだ街のことを分かっていないから

こんなことになる。

適当に乗ったテンプーは馴染みの街へ。
無事に帰れましたとさ。



2015年3月28日土曜日

ボス!ダンプ!ボス!その1


ネパールだけの話ではないが、

大家さんが自分の住宅の一部分を、フラットとして貸しているケースが多くある。

我が家も最近そんな場所に越してきた。


大家さんの敷地に出入りする人は多く、

フラット住まいの我々はその中の一員のように感じる事がある。

プライバシーが無いように見えるかも知れないが、

新しい人間関係に溶け込み、笑顔であいさつし、言葉を交わすことが、

1日を自然と明るく健全なものにしてくれる。


しかし、である。

人間関係ならぬ大家さんの飼い犬との関係には、正直やや怖気づいた。

巨大なオスのシェパード「ダンプ」は、立ち上がれば僕の肩に手(前足か)をポンと置けるほど

大柄で、なんだか瞳孔が小さめで金色に見えるその眼は、ジュラシックパークのT-REXを彷彿とさ

せる、と言っても過言ではない(過言かも知れないが。)。


かつて僕らが育った時代の犬は、見知らぬ人には吠え猛り、

飼い主が抑えようが叱ろうが、退治するのはこの俺だと言わんばかりで

最強の防犯ツールとしての役割を担っていたと思う。


ダンプはそんな番犬の古典的役割を期待されて育っている。

(ネパールで犬を飼うとは往々にしてそういう事だ。)

初日、恐る恐る声をかけた時の彼の唸り声は忘れることができない。

2m先からでも地面を伝わる、巨体に反響する低い声は、ジュラシックパークのT-REXを彷彿とさ

せる、と言っても過言ではない(過言かも知れないが。)。

で?

<続く・・・>

















 

2012年10月3日水曜日

ハジュール!




この国にきて以来、「ハジュール」という言葉を聞かない日はない。




定義はとても難しい。


名前を呼びかけると、相手は答える。「ハジュール!(はい)」


「元気ですか?」 「ハジュール!(元気です)」

電話を取って最初の一言、 「ハジュール!(もしもし)」



「いい天気ですね。」  「ハジュール!(そうですね)」

「この先をこう行って・・・」 「ハジュハジュ(はいはいなるほど)」 

「それから右に曲がって・・・」 「ハジュール(了解)。ダンネバー。」という相槌にも。



相手の言う事が聞こえなかったときに、 「ハジュール?? (いま何と?)」と訊き返し、


店先で 「ハジュール!(誰か)」と呼びかければ、中から店主がやってくる。





意味を持つ言葉であると同時に、合いの手や、記号のようでもある。

独特の機能を持った言葉だ。



使い方を覚えた僕は、妻への返事に最近これを使っている。

仰せつかる用事に、いろいろな思いを込めながら(笑)。



「クロちゃん!」


「ZZZ・・・ハジュール?」















 





 

2012年4月20日金曜日

デヴァナガリ文字で、書いてみる


今更だがPCの中に、ネパール語やヒンディー語で使われる

「デヴァナガリ文字」と呼ばれるフォントを入れた。

あの、上を一本の横棒でつないでいる不思議な文字だ。

物干し竿にぶら下がる洗濯物に見えなくもない。


もともと読める気も書ける気もしなかったあの文字を

今やPCで打とうという気持ちになったのだから、

これは大きな前進だ。






Googleにアクセスし、Google IMEをインストール。

言語バーの左端にある“JP”の文字をクリックすると、

“NE”(ネパール語)との切替えができるようになる。

切替える。

発音どおりローマ字で打つと、変換候補が次々に現れるらしい。




नमसुते`...`ナマステ。おお、打てる!当たり前だけど、小さな感動にときめいてしまう。

(最初に“ナマステ”を打つ自分にもちょっと笑う)

その瞬間、隣の家の雄鶏が大声で鳴いた。


調子に乗る。

सन्चै हुनुफुंचा`? एकुदमु राम्रो! (元気ですか? めっちゃ元気です!)


धेरै रमैर छा...(た、楽しい...)

काना खानुबायो? (ごはん食べた?)



母音記号とか綴りとか、多分間違っていると思うけれど、

聞いた言葉をローマ字打ちすれば、それらしい文字列が出て

ちゃんと話しているような錯覚を味わえる。


最近ちょっと停滞していたから、

しばらくこれで遊びながら覚えようと思う。



錯覚でもいい。少なくともそういう気持ちになった、ということで。



新居の屋上から。あの山の名は、“ナガルジャン”、と3階の友人が教えてくれました。




























2012年3月16日金曜日

“アウンダイチャ”


バスの停留所。

こちらに近づいてくるバスの姿が見え始めると、

横にいるネパール人たちが口々に、

“アウンダイチャ、アウンダイチャ!” 



レストランで、「注文したけど、まだか?」とウェイターに尋ねると、

“アウンダイチャ、アウンダイチャ。”



もともとの動詞は「アウヌ(来る)」で、

文法的に言えば主語が3人称で単数で、現在進行形でこんな形になる。


だからいずれの場面でも「今こっちへ向かっている」、「もうすぐ来るから」という意味になる。




今日の午後、またガス屋に行ってみた。

15㎏ほどの赤いタンクに入ったプロパンガスは、

ネパール国民の台所に欠かせないのだけれど、

この2、3か月は深刻な供給不足で結構みんな困っている。

だましだまし使う我が家もなんとか手に入れたいと思い

ガス屋通いを続けているが、何度振られたことか。


町で誰かが中身の入ったガスを運んでいると、

ちょっとした羨望の的にさえなってしまう、今日この頃なのだ。



しかし今日は、違った。僕の顔を見るなり、店主が言った。

”アウンダイチャ” 


“え!?アウンダイチャ?”

店主、(首を何度も傾けて)”アウンダイチャ。”

僕はにわかに信じられず、別の店員にも“アウンダイチャ?”と確かめる。

店員、“アウンダイチャ!” と笑って答える。そして座って少し待てと。


めでたく我が家には、ガス満タンのタンクが到着し、

妻と二人で大喜びだ。 

誰かが言っていたが、ネパールでは幸せのハードルが低い(笑)


ちなみにアウンダイチャしているものが到着すると、“アヨ”になる。まあいいか。


この汚いタンクが、
本日現在、我が家の家宝(笑)




















果てしなく変化するネパール語動詞の語尾活用。


日常拾い上げる無数の言葉に、なんとか文法の理屈をかぶせては

自分なりに納得、整理するようにしているけれど、

目と耳と心と、時には身体全部で覚えるのが一番いい。

多分もう、“アウンダイチャ”だけは忘れない(笑)








































2012年3月9日金曜日

首をかしげて


言語がわからない間、身振りの役割の大きさは尋常ではない。


相手の目や口の動き、声の大きさから、
何とかして情報を読み取ろうとする習慣が身についたし、
コミュニケーションに詰まると、相手の顔に穴があくほど見つめる癖が。

けれどここへ来て一番戸惑ったのは、
ネパール人が(恐らくインド人も)肯定の返事をするときに、
頷くのではなく、首をかしげる動作をすることだった。

何度も続けてそうするから、首を振ってNOと言っているように見えるのだ。
あるいは、「どうかなぁ?」と迷っているようにも。


交渉成立まであとひと押し、と思っても、NO。
写真を撮ってと頼んでも、NO。
このバスでどこどこに行けるかと訊いても、NO。

その後で、頼んだ事を全部やってくれるので、こちらは一瞬ぽかんとなる。
今、だめって言ったよな?と。

最近はようやく慣れてきたけれど

今度は自分がやってみたくなり、空いた時間に一人で練習してみる。


・・・「ぐき。」

まだまだ長い道のりだ。


スウェンブーの子ザル。
何かに夢中でこちらに気付かない。











2012年2月22日水曜日

スマッシュが決まらない

日々ネパール語との格闘が続いている。


ちょっとした会話が通じも理解もできないときの残念感は、これまた苦しい。



とりわけネパール語の動詞の語尾活用は、人称や数、時制によるものだけでなく、

同じ人称でも尊敬度によって変化をする、という大変複雑なもので、

英語のように“三単現のエス”だけではまったく事足りない世界だ。

動詞ごとの不規則な変化が重なって、とにかく覚えられる気がしない。


ついさっきも、顔見知りのおじさんが一生懸命に笑顔で話しかけてくれたのに、

妻と二人して本当にわからなかった。本当に。


時折聞き取れる言葉から必死で推測を繰り返す。

“タパインハル”(あなたたちは)・・・
・・・”ギャス”(最近のガス不足の事か?何かいいルートを教えてくれるのか?)、
“ククラ”・・・(鶏肉がどうかしたのか?うまい店でもあるのか?)・・・。

食べ物の事なのか、口に手をやりながら嬉しそうに話し続けるのだ。



ただわかるのは、それほど大した事を話していない、という事だけだ(笑)


最後にはキメぜりふで逃げる。

“ネパリバーサ、デレイ ガーロ ツァ(ネパール語はとっても難しいね)”・・・



かつて某英会話学校で教えていたとき、
生徒たちが上手に英語で表現すると、
卓球のラケットでスマッシュが決まるイラストを見せて、誉める。というのをやっていた。
通じた爽快感と達成感を脳に刻むために。


けれど今、僕の頭の中では日々すごい数の空振りと、
当たっても決まらないスマッシュの連続だ。

何とかして1本、決めてみたいと
今日もテキストを開く毎日・・・。


今朝の窓から。ネパール語の陽も、昇るのか・・・。